定番や量産型はダサくはないけれど・・・ SamuraiELO3月号(2016)
語彙不足に加え表現力にも乏しいため人様のファッションにケチを つける際には「ダサい」という言葉をよく使っておりますdaleです。 皆さまこんばんは。
「ダサい」というのは「お洒落」の対義語であり、類義語としては「野暮ったい」、 「古臭い」、「型遅れ」、「イケてない」、「センスが悪い」あたりがよく使われる言葉ですが、 最近は「量産型」という新しいdisり方が台頭しファッション誌にまで登場しております。
2013年の「デニムシャツにチノパンという男子大学生スタイル」から 「量産型」という言葉が多用されるようになったと記憶しておりますが、 その起源はどこなのかというのが今回のお題です。
■量産型は00年代後半から登場?
【画像】これクローン人間!?「量産型女子大生」が急増中
グーグルに「量産型」と打ち込み検索すると「これクローン人間!?「量産型女子大生」が急増中」というNAVERまとめが見つかります。 このまとめは300万PVを越えておりそれだけ共感できた人が多いのでしょう。
まとめによると、
「2000年代後半から突如爆発的に日本中に広まった量産型女子大生たち」
「やたら頻発する「コーデ被り」」
「髪型やメイクも双子のようにそっくり」
「あしもとまで完全一致」
「没個性、行き着く先は就活生」
とあります。キーワードは200年代後半、コーデ被り、双子、没個性あたりでしょうか。
「かぶると言えば昔から女子大生だよね。えびちゃんの時も大量の小エビが発生したじゃないか!」と つっこみたくなるのはよくわかります。「日本の伝統芸横並びじゃないの?くだらない!」と 荒ぶりたくなる気持ちもわかります。わかりますので少し落ち着いてください。
00年代後半から量産型が増えたなぁという感覚は皆さんの中にも少なからずあると思うのですが、 量産型は突如降って湧いてきたのではなく、またいつもの女子大生の横並びファッションでもなく、 トレンドの流れを追えばそれらとは少し違うということが見えてくるのです。
それでは2000年代後半から量産型に関係する出来事を一緒に振り返ってみましょう。
■「量産型」が登場するまでの流れ
服ではなく雰囲気を揃えるのがシミラールック Seventeen3月号(2016)
【2007年】「2娘1」というギャル用語が登場
ニコイチと読みます。今にして思えば、仲間内でお揃いにすることで結束力を高め、 ギャル文化衰退に抗っていたのかもしれません。 やがて「2娘1」は平成のペアルックこと「ニコイチファッション」、「双子コーデ」 「シミラールック」と発展していき、メンズも2009年に「おふたりさま男子」なるものが登場しています。 かぶるのはイケているという流れのスタートです。
【2008年】個人消費の低迷で価値観に変化が起きる
ユニクロが「ファッションの専門学生が買うブランドNo.1」に選ばれました(繊研新聞調べ)。 ファストファッションの拡大でかぶるのが当たり前の時代になっており、 「〇〇とかぶったからダサい」みたいな感覚が古くなっていきます。 かぶるなと言われても無理ですからね、もはや。高いブランドの服ばかり買っていられません。 何を着るかではなくどう着るかへの変わり目です。
【2009年】「草食男子」が流行語になり「○○系」が廃れていく
「草食男子」と「草食系」という言葉があり残ったのは草食「男子」の方です。 お兄系やサロン系などのいわゆる「〇〇系」の後退です。量産「系」ではなく量産「型」なのはおそらくその影響であり、 このブランドを着ているから「〇〇系」という発想がなくなっていきます。 森ガールも2009年のトレンドでしたね。これ以降、雰囲気(ライフスタイルやパーソナリティーの傾向)で、 山ガール、OJIガール、塩顔男子、雰囲気イケメン、シティーボーイ、 サードウェーブ男子など「〇〇男子・〇〇女子」と括られていくようになります。
【2010年】HUgEが定番特集に苦言「マンネリな定番ならもういらない」
2010年はZOZOTOWNの好調が多くの媒体で報じられました。 水と油と言われていたアパレルECですが、ネットで服を買うのが当たり前の時代になっていき、 ネットで評判を調べてから「正解」の服を買う人が増えていきます。 その際に便利だったのがファッション誌の定番特集です。 これも量産型を増やした遠因でしょう。 どのファッション誌も似たり寄ったりの定番特集ばかりやるので、 それを見かねたHugeが7月号で皮肉を込めた特集を組みました「マンネリな定番ならもういらない」と。
【2011年】ファッション速報とファ板速報ができる
ネットで服を買う時代になればアフィリエイトに目をつける人たちが出てきます。 ファッションにもようやく2ch系のまとめサイトができました。 まとめサイトは2005年頃増えだしたので実に5、6年遅れ。 今ではファッション系のまとめサイトは10を越えます。 原宿系の個性的なファッションが奇抜でダサイとまとめサイトで度々ネタにされ、 「定番の〇〇アイテム5選」みたいなまとめ記事をメディアやブロガーが量産するようになっていきます。 どちらも手軽にPV数が稼げますので。そしてファッションにあまり興味がない層は「個性派は嘲笑され定番こそが正解なのだ」と刷り込まれていくわけです。
【2012年】POPEYEがリニューアル、シティーボーイ登場
今の量産型ファッションの元ネタがここ。あまりの一人勝ちにより 多くのファッション誌がPOPEYEに追従していったので、 どのファッション誌を読んでも源流を辿ればたいていシティーボーイに辿り着くように。 CHOKiCHOKiも「シンプルコーデ最強説!」とPOPEYE化し原宿の個性的な美容師系の人たちも降伏。 その影響は女性誌にまで及びました。
【2013年】男子大学生の私服がかぶる「かぶり男子」が話題になる
・大学生この服装多すぎ! Twitterで話題【ファッション】
http://matome.naver.jp/odai/2136239953823462101
デニムシャツにチノパンという男子大学生スタイルが取り上げられ、 理系のチェック柄率は異常と話が拡大していきます。 その後、なぜか理系大学生のファッション観測が頻繁に行われ、 デニムシャツ⇒チェック柄⇒グラデーション⇒水玉とトレンドが移り変わった様子まで報告されました。
【2014年】量産型女子大生が話題になる
・【画像】これクローン人間!?「量産型女子大生」が急増中
http://matome.naver.jp/odai/2137102146308248201
かぶっているのは男子大学生だけじゃないんですけどー!と女子大生の方も話題になり始め、 「量産型」という言葉も頻繁に見られるように。またサイバーエージェントが運営する「Candy」の 女子中高生流行モノ・コトランキングでも1位壁ドン、2位おそろコーデ、3位ツイキャスと「おそろコーデ」がランクイン。 トリンプの世相ブラも「仲良し姉妹ブラ」とお揃いをテーマにしておりました。
【2015年】ノームコアの1年
2014年からのトレンド「ノームコア」で終始した1年。日本では「究極の普通」として紹介されたトレンドです。 K-holeの論文から説明すると長くなるので省きますが、 あえて「sameness(同一性)」を選ぶ(差異化ゲームによるお洒落の否定)というのがポイントで、 簡単に説明すると、「友達のファッションとの調和を重視」するという感じでしょうか。
共有と共感を重視する世の中になりつつあるので、 見た目の個性を競い合って差異化ゲームに勤しむよりも個性をあえて消し、 格好を画一化することで他人と繋がりやすくしたのでしょう。
そして今に至ります。量産型が登場するまでにこれだけの下地があったのです。 その他大勢のダサイ人たちと差異化を図るために今イケてると話題のカリスマモデル(例エビちゃん)を模倣したのはいいものの、 逆にそのような人が多数を占めてしまい似たようなスタイルが街に溢れだした、これが過去の量産型です (トップダウンで拡がっていった)。今は各々が周りとのお洒落の調和を図った 結果似たり寄ったりの格好になっていったのです(フラットに拡がっていった)。 「横並び」志向という本質的なところは同じですが、 「〇〇系」のような特定のテイスト(キャラ)が不明確なのはそのためです。
次は量産型という言葉がどこから出てきたのかという謎ですね。 それを紐解いていきます。
■「量産型」という言葉はどこからきたのか
量産型彼氏
「量産型」というけど「何の」量産型か触れている人はあまりいませんよね。 マスプロダクションモデル(量産型)に対するプロトタイプ(原型)があるはずです。 ネットを見ていると、「大衆向けの大量生産された服(SPA)を愛用しているお洒落」、 「メディア(雑誌)によって大量生産されたスタイル(型)」という2つの意味で主に使われており、 『量産型彼氏』の言葉を借りるなら「ありがちな髪型とありがちなファッションで決めた、 見わけもつかないありがちな人」となります。おそらくこれは元ネタを知らないからであり、 一部の人たちが面白がって使っていた「言葉」だけが広まっていったからでしょう。
その手の言葉はだいたい2ch発祥です。ネガティブな言葉ならさらに確率が上がります。 例えば、2007年、POPEYEがHARE好きを「ハレラー」と命名したのですが、 それに対する2chの揶揄の仕方が「頭ハレハレ」というもの。 おそらく元ネタは『ハレ晴レユカイ』だと思いますが、 アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の影響がファ板にまでくるとは衝撃でした。
そんな2chに当時よく取り上げられたり晒されたりしていたのが当ブログElasticです。 「痛いニュース」に晒されたこともありました。00年代後半はそれなりに影響力が強かったんですよね。 Yahoo!ニュースにも取り上げられたことも何度かありますし、 草食男子という言葉をウェブで話題にし始めたサイトとして名付け親から言及されたりと、 そんな自己アピールはどうでもいいのです。
Elasticから広まった 言葉として日本俗語辞書に載っているのが2009年の「ユニバレ・ユニ被り」です。 当時はまだ「量産」は賛否両論でありユニバレやユニ被りがよく話題になっていました。 ユニクロ、無印良品などの大量生産された服を使うスタイルを揶揄するのに「量産」という言葉が使われており、 それは量産型ではなく量産系(ファッション)だったように記憶しております。
ではどこから量産型という言葉が出てきたかというと、 その前年である2008年のElastic「 男性ファッション誌の分類・分析2008」という説を唱えてみたいのです。 この記事は100万単位のPVを稼ぎ出した記事で今でもよく読まれています。 2009年にユニバレ・ユニ被りを拡散させる力があったのなら、 この記事にも十分その力はあったと考えられます。
記事ではメンズノンノ系のファッションを「量産型モード系」と括っています。 「メンノン系」と括るにはテイストの幅が広すぎるクラスターがあり、 それに対し、モードというプロトタイプにメンノン的なフィルターを通して 焼き直したスタイルであると説明しています。当時はモード、特にディオールオムの影響が凄まじかったので。
この説明はコメント欄等で上手い表現だと複数の人から言われたのを覚えています。 その後「量産型モード系」は「量産型」と省略され、 モードに対する劣化コピーを繰り返すブランドやそれを着用する人たちを 揶揄する言葉としてネットで見るようになりました。
2008年はファストファッションブームです。ZARA、H&M、その他SPAは だいたいモードブランドの劣化、つまり量産型モード系です。 時流に上手いことはまったのでしょう。後は上の量産型が登場するまでの流れに書いてある通りです。 「〇〇系」が後退し「量産された」という事のみが注目されていったのです。
■「量産型」の何がダサいのか
量産型からネクスト量産型へSamuraiELO3月号(2016)
冒頭でアイキャッチに使ったSamraiELOの特集「トレンド≠女子ウケ」という特集を読むわけです。 「定番量産型ファッションは他人とカブリがち!」とあり、 「かぶる=ダサイ」という図式が今でも根強く残っているのが見て取れます。 ただ今はカブるのが当たり前の時代であり、あえて同一性を選ぶ人もいるくらいなのでポイントはそこではありません。 次のページの改善案を読めば問題点がわかります。
特集では今の量産型ファッションであるチェスターコートスタイルを 次のように改善していました。
「Gジャンのインナー仕様でこだわりあるスタイルに。春の大本命である「デニムONデニム」を先取りメガネとクラッチで大人感をUP」
「インナーにフードを差し込むことでスポーツMIXへシフト。 ナイロン素材をセレクトすることでアクティブな装いが加速した!」
「定番量産型ファッションは他人とカブりがち!」に対する答え 「自分なりのアイテムを合わせるという君のオリジナルファッション」はどこいったんやー!と総つっこみですよ(笑) これ置きに行ってますやん(関西弁で勝負せず安全策に走るという意味)。
量産型のアップデート案として提案されているマネキンの真似とトレンド感のプラスですが、 言うまでもなくマネキンの「Gジャンのインナー仕様」はアパレル業界が提案したい次のトレンド (参考:ELEMENTS OF STYLE)、 スポーツMIXは昨年から拡大の気配を見せている「アスレジャー」、 どちらも鉄板のトレンドでありネクスト量産型の提案でしかないのです。
ここで賢明な皆様はもうお気づきかと思いますが、量産型のお洒落とはいかに源流の方にいるのか、 言い方を変えれば流行の着方を最初の方にするのかという情報収集力勝負になっているのですね。
それって今までとさほど変わらないのでは?と私も思います。 今は「〇〇系」のブランドを身に纏うのではなく、「〇〇」という着こなしの型を纏うのです。 それ故に量産「型」なのです。「お洒落なブランドを知っていたらお洒落」から 「お洒落な着方を知っていたらお洒落」へと変わっただけです。 飛びついた速度の速さが評価される点では同じです。
むしろ、どのブランドを着ているのかいう点で争われていた「〇〇系」の時代より、 着用ブランドや着方が画一化されてきたことで流行に飛びつく早さがより重要になってきたのでしょう。 結局は「イノベーター理論」で説明されるこのお洒落観がダサいと言われているのですね (ファッションの仕組み的には仕方がないのですが・・・)。
■「量産型」をイノベーター理論で説明すると
ストリートスナップという切り口から考えてみました
・理解を越えた何か(イノベーター)
お洒落か否かその良し悪しの判断が難しい人たち。一般人には理解不能。 そこから流行の芽を見つけたりセンスの良さを拾うのがスナップハンターの腕の見せ所。
・お洒落(アーリーアダプター)
ブロガーやメディアがストリートスナップを引用しトレンドを解説するのに使われる人たち。 これが「お洒落」として量産型の雛形になっていく。
・ネクスト量産型(アーリーマジョリティ)
ストスナの壁を越えるほどの情報感度はないが流行には比較的敏感な人たち。 自撮り(セルフショット)をネットに上げ量産型の拡散に寄与。
・量産型(レイトマジョリティ)
横並びを好む人たち。情弱であることを避けるため適宜周りに合わせる。
・ダサい(ラガード)
流行に興味はないが市場の影響(アパレルは模倣を繰り返しトレンドが裾野まで降りてくる)で気付いたら量産型になっていた人たち。 主に服に無頓着な点が「ダサい」と指摘されている。
優越感ゲームの仕組みとしてはトレンドという行列の前の方にいる人たちが後ろを振り返り、 「今頃並びに着たの?情弱じゃない?ダサイー!」とバカにしているにすぎません。 行列に興味のない人から見たらみんな同じ格好です。 「誰が誰でもおんなじザンス」とイヤミに言われるレベルです。 だからこそ並んでいる人は後をダサいとバカにし早さによる差異化ゲームを仕掛け自分の優位性を主張するのです。 自分もせいぜいネクスト量産型レベルなのかもしれないのに・・・。
そしてその行列自体をダサいと言う人たちも出てきます。 「いつまでトレンドに踊らされているの?」「自分に合った~、個性が~、品格が~、自立した~、 おフランスでは~、これだから日本人は~」とお約束の説教が始まります。
さらにその説教する人たちをいかにセンス良く皮肉るかを競い合っているスノッブな方々まで登場するわけですが、 これがお洒落におけるよくあるマウント合戦であり、 言及するとその戦いの渦に巻き込まれますので遠くから眺めているのがよろしいかと。
参考までにお洒落の渦潮は鳴門の渦潮同様3月下旬から4月下旬が見頃です。 今年の渦の中心は「タッキー」になりそうな気配を見せており、 これは「悪趣味」と説明される派手なファッションスタイルです。 量産型ファッションは「没個性」で「無難」が特徴と言われておりますので、 かなりのマウント合戦が行われ大きな渦となっていくでしょう。
はたして2014年からのノームコアで差異化から同一化へと価値観が変わったのか(差異化ゲームから降りた)、 それともただの「普通・無難・シンプル」ファッションとして消費されただけなのか。 どちらが多かったのかはっきりするかと思います。
この記事へのコメント
気の利いた※がちょっと思いつきません
気の利いたコメがちょっと思いつきません
自分はダサいにカテゴライズするのが適当か。
店をみるとメンズで量産型を選ばないのはレディス以上に難しいと感じます。
表面積の大きいアウターとパンツで瞬間的にイメージが決まり、
店舗数の多い大手アパレルほど流行に合わせますし。
若者はみなiPhone(Apple製品)に合わせたコーディネートをしているのではないかと
器
最近何となく思うのは、洋服単品で、何だこりゃってのが無くなってきた、
単品ではなくコーディネートで見せようゼって感じですね、
ほとばしる情熱を洋服単体にブツける作り手が居ないのか?単におっさんのアンテナ感度が低いのか?