巷で話題のMB氏の書籍、MBチルドレンの教典
皆さんMBチルドレンを知っていますか? マシンガンをブッ放しているチルドレンではないですよ。MRではなくMBチルドレンです。
MBチルドレンとはメンズファッションバイヤーMB氏のフォロワーのことで、 ツイッターで検索すれば「MBチルドレン」というクラスターをすぐに見つけることができます。
ファッション界では、ブランド(デザイナー)とそのファンを教祖と信者の関係に 例えることがよくあり、過去には、ギャルソナー、ヨウザー、ディオラー、シャネラー、 オラオラー、ナイナー、エンジェラー、ダダラー、ムダムダー、ハレラー、 ユニクラー、しまらー、ドラララーなどいろいろとありました。 いくつか聞いたことがありませんか?念のため申し上げておくとここ突っ込むところですからね?(笑) 紛い物を探してみてください。
さて、この「MBチルドレン」の新しい点は教祖がデザイナーではなくファッションバイヤーであり、MB氏が支持されているのはセンスではなくお洒落論(ハウツー)の方なのです。ここがまずファッション界では異端です。
MB氏はメンズファッションバイヤー&ブロガーを自称しており、 ブログ「現役メンズバイヤーが伝えるオシャレになる方法 KnowerMag」、 有料メルマガ「【最も早くオシャレになる方法】現役メンズ バイヤーが伝える洋服の着こなし&コーディネート診断」、 Web「日刊SPA!」の連載などで主にユニクロの活用術を発信し活躍されております。 メルマガについては登録数が5,000人を突破したのだとか。
さらに昨年はお洒落指南に関する書籍を3冊出し現在飛ぶ鳥を落とす勢い。 私はこの10年間に出されたお洒落指南本のほぼ全てに目を通しておりますが、 男のお洒落指南本を年に3冊も出した人は記憶になく偉業と言えます(2冊まではいます)。
ついにユニクロ公式ツイッターで紹介されるMB氏週刊SPA!さんに、3月4日販売予定のユニクロ アンド ルメール2016春夏コレクションの中から「買っておいてまちがいない」おすすめのアイテムTOP3をご紹介いただきました。https://t.co/GtlNwqyoab #uniqloandlemaire
— ユニクロ (@UNIQLO_JP) 2016, 2月 2
今回はそんなMB氏のお洒落指南について。MB氏のお洒落指南は今までのお洒落指南、 便宜上、メンズお洒落指南4大宗教にしてみましたが、 それらと何が違うのか。順に見ていきましょう。
■お洒落なんてドレスとカジュアルのシーソーゲーム
日本人が守るべき黄金律は「7:3」
メンズファッションの着こなしにおいてもっとも重要な「ドレスとカジュアルのバランス」ですが、 最適な割合は「ドレス寄り」です。欧米人はドレス:カジュアル」のバランスを「5:5」で取ればOKなのですが、 日本人が中間を狙うと、どうしても子供っぽくなり、バランスを崩しかけません。 『最速でお洒落に見せる方法 P38』
MB氏のお洒落指南最大のポイントは「ドレスとカジュアルのバランス」です。 日本のアパレル市場はアメカジに強く影響を受けており、 日本人の男性がいまいち垢抜けないのはアメカジに依存しすぎているからだという主張もされています。
ドレスとカジュアルの分類がざっくりしている
さすがのMB氏もアイテムごとにドレス値、カジュアル値を設定し指南することはしていません。 シャツはドレスアイテムの代表、黒っぽい色はドレス、素材に光沢感があればドレスといった感じで ざっくりとした説明です。「7:3」というのも人によって感覚が違うので そこまで踏み込むのは難しいのでしょうね。トレンドや個々のパーソナリティーを加味し、 試行錯誤というバランスのシーソーゲームをやって熟練していくのがお洒落です。
MB氏より細かい仕分けがたくさん出てくる
「ドレスとカジュアルのバランス」を主張しているのはMB氏以外にもいます。 まずは『大人のための私服の教科書 (2013年)』。著者の久保田氏はドレス感を「K値(カッチリ度)」と表現し、 全身のK値を6~7程度におさめるよう提唱しています。MB氏の「ドレスとカジュアルのバランスは7:3」と同じですね。 MB氏と異なり各アイテムやショップのK値を具体的に出しているのが面白い点です。
他にはパーソナルスタイリストでありお洒落指南本を何冊か出されている 森井氏も「エレガントカジュアル」と同じような主張をされております。 カジュアルを上品にドレスアップ、スーツスタイルを上手にカジュアルダウンする着こなしを提唱しており、 要するにドレスをエレガントに言い換えたものです。
しかし、どちらもMB氏のように多くのフォロワーを生み出すまでには至りませんでした。 なぜMB氏がこれほどまでに受け入れられたのかというと、根底には従来のお洒落指南への強い否定があり、 その心意気にも感じるところがあったからではないでしょうか。
私は本書やサイト『knowerMag』およびメルマガで日本人のファッションを変革する気でいます。『最速でお洒落に見せる方法 P10』
■メンズお洒落指南4大宗教、くだらない指南にドロップキック
Ⅰクラシック教
『男の服装術 スーツの着こなしから靴の手入れまで』の 故・落合氏が代表的な論者で、お洒落の根拠は「有名なテーラーが~と言っていた」 「クラシックの文法では~」「服装は教養であり~」と権威主義。 このお洒落指南の行き着く先はビスポークです。オーダーメイドなのでお金がかかり、 もちろん数をこなさないと思い通りの服が作れないため時間もかかります。 指南は細かい話が多く、「Super100'sとは原毛の細さが18.5ミクロンである」といった素材の話、 「シャツは運針数(1インチの間に縫目が何個あるか)をチェックしろ」といった品質の話、 「革靴の爪先の反り具合は床から20ミリ以上にならないようシューキーパーを入れろ」といったメンテナンスの話など、 お洒落にさほど興味がない人にとってはもはや修行の域。「シャツは下着」という夏の荒行も有名。
MB氏のドロップキック:欧米か!たかが服ですよ?
Ⅱジコケイハツ教
「必要なのはお金じゃなくてセンスです」でおなじみのLEONをはじめとした大半のファッション誌、 「一流の~、できる男の~」と煽る様なタイトルのお洒落指南本(パーソナルスタイリストが書いたものが多い)がここ。 「人は見た目が9割」とメラビアンの法則を都合よく解釈し話を進めていきます。 旬と王道を混ぜたブランドセレクトが特徴で、「女性にモテるのは~」 「今時の着こなしは~」「一流の人間は~」と自己啓発を促すものが多く意識が高いです。 ついでに掲載されているブランドの値段も高め。 辿り着く先は一流のブランドでかためたスタイルです。最近はクラシック教との複合タイプも多く何かと「ピッティ、ピッティ」言っております。
MB氏の二段蹴り:品質(一流ブランド)はお洒落の担保にはならないし、色彩理論はお洒落の決定打にはならない
Ⅲコンテクスト教
バイク、サーフィン、ロック、スケート、登山など特定のカルチャーやライフスタイルを背景としたお洒落(大半がアメカジ)。 ブランドどうこうよりも思想や価値観などの理解が必要であり、 服装が板に付くまで時間がかかります。指南はいかにオリジナルに近づくかと言う背景の話が多く (当時のエポックメイキングな出来事、その時代の感覚や空気がどうだとか)、 お洒落よりむしろカルチャー語りの脱線の方がメインとも言えます。 また服が体に馴染んでいるか(使い込まれているか)という点からメンテナンスの話も多いです。 雑誌だとLIGHTNING。書籍だと『IVY ILLUSTRATED―絵本アイビーボーイ図鑑』や 『ヘビーデューティーの本』とかがここ。
MB氏の水平チョップ:一系統に偏るからダサい、お洒落はミックスとバランス感覚
このように従来のお洒落指南全般にプロレスを仕掛けていくスタイルがMB氏です。
クラシック教の厳しい教えについていけなかった人、オロビアンコの紐をファッションマニアに突っ込まれ涙目になった人、 背景語りばかりで具体的なお洒落の話にならずうんざりした人など、 お洒落指南に挫折した人たちは多いと思います。
騎士道と言われても日本は侍の国だし、お洒落は足元からと言われても靴に10万出すのはしんどいし、 当時のユースカルチャーがどうこう言われてもその時代に生まれてすらいないし、 とお洒落指南の多くは現実から乖離しています。
その不満をMB氏が代弁してくれたのです。そしてMB氏の指南は徹底して等身大路線。 考えるな!感じろ!と突き放されたりもしなければ、よくわからない精神論も余計なモテ論を出てきません。 入手の容易なユニクロを軸としたわかりやすい理論で誰にでも実践しやすいのですね。 脱落者にとっては救世主でしょう。
MB氏の主要読者層は30代だそうです。脱オタ論を通ってきた世代です。 まだ需要があるの?と少々驚きではありますが、 従来のお洒落指南では彼らの役には立たなかったのかもしれませんね。
Ⅳユニムジ教
00年代前半はネットで脱オタ論が活発に行われ、それが一冊の本となり世に出たのが 『脱オタクファッションガイド』です。 「電車男」というのもありましたね。このクラスターはユニクロや無印良品を軸にした安くて無難な服装を目指しており、 時間もお金もかけないスタイルです。
00年代後半にはファストファッションブームがおこり「安くて無難なお洒落」を ファッション誌も提案し始めました。やがてそのスタイルが市民権を得ていき、 満を持してMB氏というカリスマ登場という流れです。
ユニムジ教はノームコアやミニマリストとも親和性が高く、そのうち分裂するのかもしれませんが、 ユニムジ教の王道はMB氏がしっかり受け継ぎ発展させております。
■ちょっとくらいのMB本ならば残さず全部読んでみたい方へ
お約束ネタも登場『服を着るならこんなふうに P31』
ファッション好きのお洒落指南は読んでいて鼻につくというか、 妙に排他的で腹が立ってきませんか?MB氏の本はその成分が控えめ。 そして自分のセンスも顔も体型も隠さない潔さ。当たり障りのないオシャレ指南ではなく、 MBテイストもふんだんに盛り込まれおり、この人にならついていこう!と思わせる上手さがあります。
そのMBテイストを受け入れられるかどうかです。MB流お洒落指南の第1条を「ドレスとカジュアルのバランス」とするなら、 第2条は「黒のスキニージーンズをはけ」になります。 私はこの第2条で脱落いたしました。なぜなら私はワイドパンツ派であり、 脚の形がくっくり出るパンツが苦手だからです。これは仕方ないですよね。
「スキニーって超細いパンツのことでしょ。40代には厳しいな…」と年代や 体型を気にして遠慮する方も少なくはないのですが、まったく問題ありません。 なぜなら、スラックスもインディゴデニムも誰もがはくアイテムであり、 その中間に位置する「スキニーデニム」がダメなわけがないからです。 『最速でお洒落に見せる方法 P72』
私がワイドパンツ派なのはおいておき、読んでいて引っ掛かったのがここ。 私はスキニーデニムはインディゴデニムとレギンスの中間だと考えています。 スキニーブームから少し遅れてやってきたのがレギンスブームです。 トレンドはより極端になっていくものなので、スキニーをより先鋭化したアイテムがレギンスでしょう。 インディゴデニム⇒スキニー⇒レギンスです。
誰もがはくスラックスとジーンズの中間、ドレスとカジュアルを兼ねるアイテムとして 台頭してきたのは「ドレス仕立て(スラックス仕立て)のワークパンツ」であり、 特にドレスチノは多くのファッション指南で推されています。体型補正効果もあるので 大人のスタンダードはこちらが一般的です。
10代、20代向けのファッション指南なら黒のスキニーはよくみますが、 年齢問わず「パンツは黒のスキニージーンズをはけ」というのはMB氏の独自性が強く、 ここは強引に理屈付けしたなと読んでいて思ったのですが、 『最速でお洒落に見せる方法』chapter4の偏愛アイテムに出てくるブランドのラインナップを見て納得いたしました。
sixe、ラウンジリザード、アタッチメント・・・でファッション好きならピンとくるはずです。 「なるほど、ドメか」とはっきりわかります。どこも黒くて細いスキニーを出しているブランドであり、 特にラウンジリザードは年季が入っています。ディオールオムがスキニーを流行らせる前から スーパースリムとかなり細いジーンズを出していました。
ドメとはドメブラ(ドメスティックブランド)のことで、ざっくり説明すると日本人デザイナーのブランドという意味です。 一括りにするのは少々気が引けるのですが、黒くて細い服が多いのが特徴で、 いわゆるモードの影響を強く受けています。そのモードをストリート色でアレンジしたり、 日本人体型でもモードっぽい服が着れるようサイズ調整をしているので若者に人気があります。
そしてドメ関連ならここも代表的なMBテイストです。
「全身黒」は初心者にオススメ
「ドレス」を思い出してください。黒のスラックスに黒のジャケット、 スリーピーススーツであればインナーまで黒です。「全身黒」というのは ドレススタイルを凝縮したカラーコーディネートです。「全身黒」がダメであれば、 ドレススタイルを否定しなくてはなりません。<中略>「上下黒」はドレススタイルの色合わせです。 カジュアルなアイテムだけで構成したコーディネートでも、 「上下黒」にするだけでドレスライクに見えてしまいます。『最速でお洒落に見せる方法 P149』
安易すぎるからダサい、地味だからダサい、オタクファッションに多いからダサい、 この3点を否定し全身黒をすすめています。
ドレスとはMB氏の説明ではスーツなどの礼装スタイルのことなのですが、 MB氏はダークスーツ(ダークカラー)とブラックスーツ(ブラック)を(あえて?)混同して使っているようにみえます(ドレスと黒について書くと長くなるので気になる人は『「黒」は日本の常識、世界の非常識』や 『ハーディ・エイミスのイギリスの紳士服』を読んでみてください)。
全身黒と言えば、個人的には、ドメやモード寄りのファッションの人に多いという印象が強いですね。 そのスタイルにMB氏が馴れ親しんでいるからこそ強くすすめているのかなと。
大人のお洒落指南で全身黒はまず出てきません。ドレス感というよりも異質な雰囲気が出るからです。 コムデギャルソンとヨウジヤマモトの「黒の衝撃」が30年前の西欧モード界を震撼させたように (もちろん黒であることだけが評価されたわけではないけども)、 黒は良くも悪くもふつうのファッションではないのです。その2人の功績によりカラス族が生まれ、 日本での全身黒はモード系のスタンダードになっていったのかもしれませんが。 もちろん全身黒が悪いと言っているわけではありませんよ。
つまり、何が言いたいのかと言いますと、スキニーや全身黒をすすめているあたり、 MB氏はドメブラ・モード畑の人なのでしょう。そこからお洒落指南をしているのです。 ベーシックではなくあくまで「お洒落に見せる」方法を説いているのです。 それは頭の片隅に置いておきたいところ。
大半のお洒落指南はクラシックをベースにしているので、この点もMB氏の新しい点だと言えます。 別にモード方面からユニムジに切り込んだお洒落指南があってもいいと思うのです。 むしろそこがオンリーワンなのでMB氏がこれだけ支持されているのでしょう。 クラシック一辺倒のお洒落指南界に変革が起きるのか、今後もMB氏の動向から目が離せませんね。
■まとめ
最速でおしゃれに見せる方法
・MBチルドレンという信者が増え続けている
・合言葉は「ドレスとカジュアルのバランス」である
・日本人はカジュアルに傾倒しすぎているのでドレスを意識すべきであるという主張だ
・これは大人向けのお洒落指南の大半も指摘し指針にしている点である
・アメカジの下げ方は共通しているが、MB氏のドレスの定義は独特である
・クラシック畑のドレスとMB氏のドレスの感覚は別物に感じるほどである
・おそらくMB氏の視座がモードにあるからだと思われる
・お洒落指南の大半の視座はクラシックである
・モード、ドメブラ畑の人がお洒落指南をすることはなかった
・センスという感覚を言語化するのはダサいからである(センス至上主義)
・理屈を語れるほど習得に時間がかかった、つまりセンスがないことの裏返しであるからだ
・お洒落に見せるにはある程度共通のテクニックがありそれを言語化しているのがMB氏
・指南も取り上げるブランドも徹底して具体的。強引にでも理屈をつけて説明している
・それを本人が実践し顔も体型も包み隠さず書籍で披露している。その男気が素晴らしい
・ユニクロを軸にコスパの高いブランドが多数登場、これだけでも初心者は読む価値がある
・MB氏レベルでブランド、アイテム、テクニックを列挙している人はいない
・それは雑誌の役割であり、具体的に書くほど時とともに情報が陳腐化していくからである
・ファッションにはトレンドがありお洒落のコードが変わる
・例えばMB氏もやっている白ソックスちら見せがいつまでお洒落なのかわからない
・なので変動が少ないクラシック方面から指南をする人が多い
・MB氏はそこを攻めた以上、情報を頻繁に更新し続ける必要がある
・そのためのブログ、メルマガとも言える。書籍でもそこに誘導している
・MB氏のロジックをコンパクトにまとめたのが『最速でお洒落に見せる方法』
・基礎的な情報に焦点を当てたMB入門書が『Men'sファッションバイヤーが教える 「おしゃれの法則」』
・漫画『服を着るならこんなふうに』は主人公の妹がお洒落指南役、『脱オタクファッションガイド』を彷彿とさせる
・この3冊の中でオススメは体系的にまとめられている『最速でおしゃれに見せる方法』である
この記事へのコメント
nd
16SSは雑誌等がタイトストレート/テーパードストレート(といっても実質的にはどちらもウレタン混紡のストレッチのきいた擬似スキニー)とは
別のシルエットを提案しだしました。
でもそれらはタイトという基軸のアクセントにしかならないと思っています。
メンズのボトムスは基本的にはパンツしか選択肢がない。
日本の大手アパレルは流行の右に倣えが基本戦略だから価格帯を絞るとパンツのシルエットの選択肢が少なくなるのも問題だと思います。
お金を出せるならもちろん選択肢は広がりますが……
シン
ってのは慧眼だと思ってます
解りやすい洗練感・着た経験のない細身シルエットは
自己肯定感をブーストさせるのに物凄く効果的であり
自信が付くと更に服にチャレンジ出来る、良い循環が出来上がるんだと思います。
あのスタイルを全肯定はできませんが
この辺の心理に配慮した指南書は確かに凄いと思います
言ってることが有用なのはわかりますが、彼のそういう露骨なところは割り引いて読まないとダメですよね
メロコトン
言ってることが有用なのはわかりますが、彼のそういう露骨なところは割り引いて読まないとダメですよね
T
あれ?しれっとディス入れてませんか?
to nd氏
ユニムジでもムジの方はワイドなパンツも扱ってますよ。
アラサー
確かにMB氏に近い格好してますわ