できる人はなぜ「白シャツ」を選ぶのか (PHPビジネス新書) 唐澤理恵 PHP研究所 2013-12-19 売り上げランキング : 7627 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
今回取り上げるファッション書籍は『できる人はなぜ白シャツを選ぶのか』。 新書からファッション関係の本が出るのは久しぶりで、著者は首相をはじめ政治家や財界人、 企業役員から就活生、婚活中の社会人まで、3,000人の見た目をサポートしてきたという唐澤理恵氏。 要はイメージコンサルタントのお洒落指南本です。
内容はビジネス寄りで、スーツ編、顔編、ボディ編、色編、番外編の全5章。 他のイメージコンサルタントのファッション本同様、薀蓄、顧客の話、 自己啓発の3点からお洒落指南をしています。若干薀蓄成分が多め。
さて。皆さんも気になったと思うのがタイトルの『できる人はなぜ白シャツを選ぶのか』。 その理由が知りたくて私も本書を手に取りました。市場に出回っているのはほとんど白シャツじゃないの? サックスブルーのシャツはどうなの?できる人が白シャツを着用しているという統計でもあるの? 非常に気になるお題ですよね。では前フリはこれくらいにして、 さっそく白シャツに言及している1章の「6.白シャツを極めよ」を見ていきたいと思います。
■シンプルイズベストだから?
彼に限らず、「おしゃれといえばカラーシャツやストライプ柄、クレリックシャツ(襟が白く、シャツ地は柄)」と 思いこんでいる人は多いと思います。
二重襟でボタンホールに色糸が使われているシャツを着用してきた顧客のエピソードからスタート。 これはファッションビギナーが陥りやすいあるあるネタですね。頑張る方向性が間違っております。
そして、シャツに凝れば凝るほどネクタイとのコーディネートが難しく、 文字通り、″自分の首を絞める″事態に陥ります。そこで、私がいつも提案するのは、 白シャツを極めるビジネススタイルです。
サックスブルーのシャツではいけないのか?という疑問が。 ビジネスシャツの基本は白シャツとサックスブルーであり、 この本でも引合いに出されているオバマ大統領もサックスブルーのシャツを着用されていることが多いです。
白シャツというと「Yシャツ」を思い浮かべる男性が多く、昭和時代の疲れた サラリーマン像を想像される方もいるでしょう。余談ですが、 Yシャツは「ホワイトシャツ」のワイを取ったものです。
Yシャツは「ホワイトシャツ」のワイを取ったものだからシャツは白シャツに限るということなのでしょうか。 付け加えるなら、西日本はワイシャツではなくカッターシャツ文化圏であり、ワイシャツもカッターシャツも和製英語にすぎないので根拠としては弱いでしょう。余談ですが、白シャツが定番なのはシャツは貴族の肌着であり、素材にホワイトリネンやシルクが使われていたというルーツがあるからです。
白シャツですが、今市場に売られている白シャツは、Yシャツでイメージする ペラペラの生地で襟がヘナっと下がったものはほんの一部。 実際にはいろいろな織地で襟の幅も形もさまざまです。
へなっとしているのはフラシ芯で腰があるのは接着芯ということでしょうか。 柔らかな風合いを取るか。シワがないカチッとした襟を取るか。 重要ポイントだと思うのですが本書ではこのあたりの説明はスルー。
襟の幅や形は顔やからだの大きさによって選びますが、生地選択は自由です。 いろいろな織生地の白シャツから自分に合うものを選ぶのは、 とても奥が深いおしゃれです。
「シャツの襟は顔の額縁」という言葉があります。それだけシャツの襟型は 顔のイメージを左右するということです。セオリーもあります。 このポイントこそイメージコンサルタントの出番だと思うのですがここもスルー。ついでに襟の高さの話も出てきません。
しかも、白シャツはネクタイとの相性を選びません。つまり、スーツとの相性やTPOに 合わせてネクタイを選ぶだけであれば、ひとつ手間を省くことになります。無駄な時間と努力を避けて、 印象がアップするのですから、白シャツを最大限利用しない手はありません。
効率的な面から考えると白が一番ということなのでしょうか。
さて、「シンプル・イズ・ベスト」と言えば、ビジネスではよく使われる言葉であり、 人生における哲学でもあります<中略>外見の印象をつくる装いも、 これとまったく同じです。複雑にすればするほど、わけがわからなく、 本来の大切なものがぶれてしまいます。
太字になっている箇所を追うと、「デザイン(ディテール)を盛ることがお洒落ではない⇒ 白シャツを極めるのが効率的⇒シンプルイズベスト」となっており、 これが「できる人」と何の関係があるのか一切述べられておりません。 本項目は「企画書もファッションも、シンプルイズベスト」で締められています。 まさか「できる人≒シンプルイズベスト思考≒白シャツ」ということ!?
■白シャツをダサいという人は最近のファッションがわかっていない?
白シャツは色編の7でも取り上げられています。
つまり、世界中のどこにも、白が似合わない人はいないということもできるのです。 有彩色にも無彩色にも長所短所があり、環境、立場によってプラスに働けば、 マイナスにも働きます。ところが、白だけはプラスがあっても、マイナスは一切ありません
白は誰にでも似合う間違いのない色というのはその通りだと思います。 しかし、肌の色が白やピンクに近い欧米人に対し日本人の肌は黄味がかかるので、 白シャツより青系の方が似合うというお洒落指南もあります。
ビジネスの場で、シャツとして極めて欲しいのは、前述の通り白です。 白シャツをダサいなんていう人は、最近のファッションがわかっていません。 素材の種類も増え、織地の種類も豊富です。
そこまで言いますか。よろしい、ならばハーディー・エイミス先生お願いします!
シャツは現代でも、ダーク・スーツに映えるように淡い色にしておく必要がある。 白は長年にわたって一番人気がある。だが、これはナイロン・シャツの時代の追憶である。 それはまさに既製服の感覚であり、本当に「ダサイ(naff)」のだ。 『ハーディーエイミスのイギリスの紳士服 P89』
故ハーディー・エイミスはエリザベス女王付きのデザイナーでありナイトの爵位まで授かっています。スーツは最近のファッションではなくクラシックがベースです。少なくともここ数年のトレンドで判断することではないでしょう。
■オックスフォードは最高級?
「〇〇課長は、いつも白いシャツで素敵ね。よく見るとそれぞれ織地が違うのよね」 女性は、男性よりも細部まで観察する習慣があります。カラーシャツや ストライプシャツなどのわかりやすいデザインだけを、女性が素敵と思うわけではありません。
私はお洒落指南本を何十冊と読んできましたが、本書ほどシャツの織地にこだわっている本は 読んだことがありません。女性ならではの視点なのでしょうか。 「いろいろ」や「様々」という言葉で濁され、ブロード、オックスフォード、 トビー、ツイル、ヘリンボーン、ジャカードなど具体的な素材名が本書にはほとんど出てこないのですが、 唯一出てくる名前がオックスフォードです。
オックスフォードと呼ばれる凹凸のある素材は、最高級の白シャツの生地です。 さらに、ワンポイントとして白いリネンのポケットのチーフがあれば、 気取り感のない洗練された印象を醸し出すことができます。
オックスフォードはシャツの生地として最高レベルに使えるのか、 それとも高価な素材の代名詞なのか。この文脈から判断するのは少し難しいです。
有名大学のMBA修士号をもつ28歳の知人がいます。ファッションが大好きな彼が身につけるものは、イタリア製のスーツにシャツ、 ジョンロブという最高級の靴を履いています。シャツは、 おしゃれな男性にはたまらないと言われるオックスフォードシャツが好みのようですが、 安くても3万円はくだらない代物です。
イタリア製、ジョンロブ、3万円という文脈に並べられているオックスフォード。 どうやら著者は高い生地の代名詞として使っているようです。
オックスフォードはボタンダウンシャツに使われる生地の定番であり、 どちらかと言えばカジュアル向けです。値段の高いオックスフォードには 「ピン」や「ロイヤル」がオックスフォードの前につきます。 そして言うまでもなく、値段は織ではなく主に生地に使われている 糸の番手で決まります。
タイトルが『できる人はなぜ白いシャツを選ぶのか?』なのでシャツに関する ことのみに突っ込みを入れましたが、全体的に著者の思いこみが強く(疑問点が多い)、 ゴリ押ししているなと感じる点が多々ありました。これなら下手にクラシックや 薀蓄を根拠に理屈を組み立てるのではなく、イメージコンサルタントとしての 自分の経験(私が考えるお洒落論)からひたすら印象論を展開すれば良かったのでは ないかというのが本書の感想です。
この記事へのコメント
平安
よく似た名前の人がよく似た日時によく似た文章で5点満点をつけています。
そしてこの方々は、他の本にはレビューを書かずこの本だけを評価しています。
まるで発売直後のこの本を評価するためだけに突如として現れたかのように・・・
不思議なこともあるものですね。
田中 洋史
私は、Eddie bauerというブランドで販売員をしており、Elasticさんのお話には頷けるポイントが多く今回の「白シャツ考察」も大変参考になりました。
日々売り場で顧客様と会話をしていて一番感じることは、「人と同じものを着たくない」「簡単にコーディネートできて人前に出ても恥ずかしくない」といったいかにも「日本人らしい」考え方の方が非常に多いということです。
「洋服の神様はデティールに宿る」と言いますが、昨今のファストファッションの興隆には正直ウンザリな今日この頃。
Elasaticさんのようなファッションブログがもっと認知され、お洒落を楽しむ世の中年男性が増えることを期待しております。
いつか、Elasticさんの執筆された本が出版されたらいいのになぁ。。。
本年もたくさんの記事ありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いします。
MAIL
Eddie bauerってPP緩いんですね。
又はコンプライアンス精神が足りないのか...
雨
かえって読んでみたくなってしまいます。
dendele