2016年02月16日

古着の価値とは何かを考えさせられた『ワンコイン古着』

ワンコイン古着



 古着が好きです。古臭い雰囲気が好きです。変なディテールを備えた珍品が好きです。 安くてベーシックなアイテムがあるところも好きです。 予約の取れなかったレストランと古着の入荷日がかぶったらどうするか問われたら、 それはレストランに行きますよ。なので常々オープンは12時や13時ではなく15時、 もしくは10時にして欲しいと思っておりますが、それでも古着が好きです。

 で、いち古着好きとして本書『ワンコイン古着 』を読むわけです。白黒写真で紹介されているアイテムは、 シャルベのシャツから、平沢唯(けいおん)Tシャツ、Kolorのパンツ、 ドミニクフランスのネクタイ100円(驚)、ファミリーマートの制服まで 実に幅広いラインナップなのですが、思ったより共感できない。 期待していたのと少し違う。これは古着屋にも種類があり、著者の好きな古着屋と私のイメージする古着屋では その性質が異なるからです。見ている点も違うのでしょう。


■著者の狩場はリサイクルショップである

中古衣料市場.jpg
古着市場ポジショニングマップ


 古着屋の種類についてこの分け方が正しいのかわかりませんし、 便宜上そうネーミングしているだけなのですが、 皆さんが古着屋でイメージするのはどのタイプですか?

1.中古ブランド店

キーワードは、ヴィトン、エルメス、グッチ、プラダ、鞄、財布、腕時計、貴金属、宝石。 いわゆるスーパーブランドの小物を中心に扱うお店。並行輸入品から中古まで置いてある。 古着屋というよりブランド屋。

例:大黒屋、コメ兵

2.ユーズドセレクトショップ

90年代後半から台頭。リユース、ユーズドなどオサレ感溢れる横文字を多用し 古着はかなり選別されている。いわゆるデザイナーズ古着がメインでパリコレや東コレはもちろん、 レプリカ系ブランドやクラシコイタリア系までファッション好きから 支持されている人気ブランドが揃う。

例:RAGTAG、Kind、RINKAN

3.リサイクルショップ

ユーズドセレクトショップより選別度で落ちる。ユニクロ、ZARA、H&Mなどファストファッションも混ざり出し、 セレクトショップオリジナルは立派なブランド扱い。人気ブランドは見つけやすいようコーナーが設けられていたり、 壁やラックの上方などわかりやすいところに置かれている。 古本屋スタートの大手チェーン店からフリマみたいな商店街の個人店まで様々な形態がある。 ヴィンテージやマイナーブランドが格安でまぎれていることもわりとよくある。

例:トレジャーファクトリー、セカンドストリート・ジャンブルストア、BOOKOFF

4.キロ系中古衣料店

アイテムの重量で買ったり売ったりするお店。アイテムの選別度は無に等しく値段が圧倒的に安い。 服好きが見たら大半がゴミにしか見えない。仕入れは店によって異なり、 海外から大量に仕入れているお店もあれば国内のリサイクルが中心のお店もある。 リサイクル寄りのお店は古臭いデザインが多く中高年もよく利用している感じがする。 私の経験談だと、「このジャケットいいボタン使ってるな」とタグを見たら銀座英國屋で750円(驚)。 とにかく安いのでボタンをはぎ取ったりパーツ使いもアリだと思う。 掘出し物を漁るならここか。

例:キロストア、キングファミリー、メガトンマーケット

5.古着屋 

バイヤー(主にオーナー)がアメリカ(ヨーロッパ)まで行き買い付けてくるお店。 いわゆるヴィンテージショップがここ。ヴィンテージとレギュラーで構成されており、 その点はセレクト品とセレオリ(セレクトショップオリジナル)で構成されているセレクトショップに似ている。 日本に進出していない人気ブランド(例:Jcrew)やデザイナーズ古着を置いてるお店も多くオーナーの個性が出る。 もはやセレクトショップと言ってもいいのかもしれない。老舗は70年代に登場。

例:原宿、高円寺、下北などの古着屋、例えばベルベルジンやサンタモニカ

6.SPA兼古着屋

いわゆる大手古着屋。古着に加えオリジナルを展開。古着の品揃えは 古着屋と基本は一緒。ヴィンテージとレギュラーで構成されているが、 質より量を重視しており古着好きが惹かれるアイテムは少ない。 古着初心者用に?ラルフローレンコーナーがよく設けられている。 00年代中盤くらいからセレオリのようなオリジナルに力を入れ始めたため 低価格SPAカジュアルに括られる場合も。

例:WEGO、SPINNS、ハンジロー


 著者がよく利用しているのがリサイクル古着とキロ系中古衣料店であり、 本書で紹介されている古着の7割が「たんぽぽハウス」で見つけたものだそうです。

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レトロ感の漂わせ方がもう古着的なそれ、ただ者ではないセンス


 そのたんぽぽハウスの特徴が店内の大半の商品がワンコインで買えるというもの。 もうこれ『ワンコイン古着』ではなく『ワンコインたんぽぽ』じゃねーか!と つっこみたくなるほどたんぽぽハウス本なのです。 読めば確実にたんぽぽハウスに行きたくなるほどに。

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■著者の視点が面白い

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ターンブルカットをクローズアップすればよかったのに・・・


 古本集めから古着集めに趣味が変わったという著者。 毎日、古着屋に通い年間1,000着も買っているというだけあり有用な情報も多いです。 古着漁りに興味がある方は目を通しておくと良いかと思います。

ビームスやアローズだと100円で買うのは難しいが、エディフィスだと この値段で買えるというのは「リサイクル古着屋あるある」。

悲しいけどこれ現実なのよね。

コムデギャルソンのアイテムは100円で見つかることが非常に多いのだ。 <中略>たぶん、コムデギャルソンとコムサデモードが、こんがらがって ごっちゃになっているんじゃないかな?

そんなお約束ギャグが展開されている場所がリサイクル古着屋。熱い!

ヨウジヤマモトは、ワンコインでもよく見つかる。

A.A.RやLQもヨウジに含めたら結構な数になるのでしょうか。特にA.A.R。

ミリタリーアイテムは、ブランド名の表示がないので、 リサイクル古着屋だと格安で売られていることが多い。

ディテールから国や年代を判断しないといけいないので上級者向き。

アメリカ国内で販売されているすべての服には、レジスタードナンバーが入っているのだ。 レジスタードナンバーとは、「RN0000」というように、RNから始まる5桁の数字で、 この番号によって生産メーカーを判別することができる。アメリカの公正取引委員会の 公式サイトで、レジスタードナンバーを入力すれば、製造メーカーがわかる

これで偽物が避けられるよやったねたえちゃん!と、 このようなお役立ち情報まで紹介されております。


■これはどう見ても古着であるとつっこみたい

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古着のサイズ感がモロに出ております

 本書には「全身古着はダサい」というコラムがあります。 著者は今風のコーディネートも目指しており古着屋のコーディネートはダサイと斬っております。 そんな著者が私物を使いスタイリングしたのがこちら。

古着CD1.jpg
おまえのような今風がいるか!とケンシロウに言われるレベル

 どこからどう見ても古着です。本当にありがとうございました。 古着屋の販売員とさほど変わらないじゃないか!とつっこみ待ちなのでしょうか。

 古着好きの「今風」は他人から見たら「古着屋風」にしか見えないのかもしれませんね。良い鏡になりました。 なら、いっそのこと古着の良さを、その魅力をもっと生かしたコーディネートにすればいいのに。 下がそんな感じに見えますけども。

 ここでようやく本題に入るのですが、古着の魅力や価値って何だろうなと。 著者が古着の何に魅力を感じているかは本書を読んでいただきたいとして、 皆さんは古着の何に価値があると思いますか?


■古着の価値とは何か

ジェンダーレス男子
        白く染まれ 犯した罪よ かかえきれない こんな夜には

 90年代の古着界のキーワードはヴィンテージです。 古着屋全盛期で街にはストリート系の男臭いスタイルの男性が見られ、 「エアマックスだ、ヒャッハー」などと狩りも行われました。 服にそれだけの思い入れがあった時代です。その思い入れを形にする レプリカブランドも数多く生まれました。

 00年代のキーワードはブランド古着です。ユーズドセレクトショップが台頭し、 デザイナーズ古着とアクの強い古着(ヴィンテージや珍品)を合わせる 美容師系(サロン系)が一世を風靡しました。服の価値どうこうよりもヴィジュアル重視です。 00年代後半はデザイナーズ古着とファストファッションを組み合わせる「ハイ&ロー」 というスタイルも人気でしたよね。

 そして10年代のキーワードは古着のパーツ化です。 ブランドからノーブランド品までフラットに扱うリサイクルショップが好調で、 その中から自分に合う古着をパーツとして取り込むジェンダーレス男子というのが 今の古着界のアイドルです。美容師系の延長です。

 先日もWEGOで握手会&チェキ撮影会が行われたばかりの彼らジェンダーレス男子の特徴は、 ブランドも古着もレディスさえも関係なくフラットに服を見ることです。 服にアクの強さや背景を求めません。自分の美意識にさえ合えば女装だってします。 美意識にそわなければ靴下の丈すらdisります。炎上だってしてみせます。 話が若干脱線しました。要するに彼らにとって古着は自分を彩るコーディネートのパーツなのです。

 それは彼らに限ったことではなく今時の若者の価値観にも見られます。 繊研新聞社の「服飾専門学生のよく買うブランドランキング」で トップ10常連の古着が2014年にランク外になりました。 古着がパーツとしての位置付けだからこそファストファッションと競合し敗れ去ったのでしょう。 安さなら古着ではなくファストファッションでもかまわないし、 別に人と服が被っても一向に構わないのです。

 作り手側を見ても古着のパーツ化は見られます。もちろん今でもレプリカブランドはありますし、 相変わらずセレクトショップも上手いこと古着のディテールを取りいれたオリジナルや 復刻を出しているのですが、最近の傾向として、古着を解体して再構築をするというブランドが増えました。 服作りの素材としての古着です。特にデニム再構築ネタはもうトレンドと言えるレベルでいろんなブランドが出しております。 例えば、masao shimizu、 sunny side up、ink、HEXICO 、HURRAY HURRAY、NEEDLES、 Soloist、KURO等々。

 私の観測範囲ではリメイクが注目され出したのは2010年頃です。 これは読売のファッション記事でちょうど今から6年前の2月です。

手持ちの服や古着に手間を加えて作り替えた「リメーク服」が注目されている。 不況による服の買い控えやリサイクル意識の高まりもあって、 ほかにはない「一点もの」に価値を見いだす人が増えているのだという。

 一般的に、古着の魅力として語られるのは「安さ」「一点もの(人と被らない)」「エイジング」です。 安さと一点ものであることが古着の優位性にならないのは先ほど述べたとおり。 安さならファストファッションです。2010年から6年経った今はノームコアの影響で服がかぶるのも平気です。 「エイジング」もこだわりがよほど強くない限り「加工でいいや」という人が多いですよね、今は。 加工技術も進歩していますし。

 なら古着の魅力って何だろうと改めて思うのです。私が考えるに、1つはデザイナーズ古着(ブランド古着)でしょう。 デザイン性の高い服(いわゆるモード系)を安く手に入れるには、 ZARA、ファストファッション×著名デザイナー、そして古着くらいしかないからです。 さらにそこから質も求めるならデザイナーズ古着しか残りません。 今はそこが古着のアイデンティティになっている感すらあります。 ブランド古着を扱う古着屋も増えました。

 そしてもう1つが古い服、ヴィンテージです。とは言ってもヴィンテージである必要はなく、 その古さ(今では見られない技術、素材、デザイン)に価値を見出す服ですが、 フラットではなくディープに古着を見る楽しみ方ですね。 90年代ではこれが主流でしたが今ではただの物好きなマニア扱いでしょう。 時代の流れとは残酷です。


 話が長くなってきたのでそろそろ終わりにしたいのですが、 ヴィンテージ(オールド)とデザイナーズ古着は同じ「古着」という カテゴリーで括るにはあまりにもその性質が違うと思うのです。 私のように6つに分ける必要はなくともせめて古着とリサイクル・リユースは分けて欲しい。

 「古着ルネサンス、若者熱狂」と古着市場の好調が報じられていても 昔ながらの古着屋はかなり数を減らしています。ワールドフォトプレスの『古着屋さん』も休刊になりました。 ヴィンテージやオールドを見て古き良きアメリカンカルチャーに思いを馳せるのではなく、 本書『ワンコイン古着』のように古着屋で宝探しをするかのように楽しむのが世の中の流れであり、 古着に対する見方そのものが変わってきています。 それを一緒くたに「古着」と括るのは時代にそぐわないと思うのです。

 古着と似たような分野に古本があります。一般的に、新刊書籍でも 購入できる書籍を「古本」、新刊書店では購入できない古い絶版本を「古書」、 「古書」の中で数が少なく価値があるものを「稀覯本」と言うそうです。 これを中古衣料に当てはめると、「古本=リサイクル」、「古書=古着」、 「稀覯本=ヴィンテージ」となります。

 たしかに消費者の価値観が変わったというのはあると思いますが、 何でもかんでも古着と括るから「古着(ヴィンテージ、オールド)」の 魅力に焦点が当たりにくくなっているのではないか?とも思うのですがいかがでしょうか。 90年代にかっこよかった服は今でもカッコいいのです。 初めからトレンドとはかけ離れたところに良さがあるのが「古着」です。 そこに辿り着くか否かという点も大きいような気がするんですよね。 その「古着」の魅力について私見を述べると長くなるのでそれは次の機会にでも。



posted by dale at 21:10 | Comment(3) | TrackBack(0) | 書評・オススメのムック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
やったねたえちゃん懐かしい 笑
Posted by at 2016年02月17日 12:04
私は古着といえばヴィンテージで、その希少性や風合いに価値を感じます。リサイクル古着の台頭によって、中途半端な古着屋が潰れていくのは、一般的なアパレルマーケットと同じ2極化の表れですね。飽きたらゴミ箱直行の安さ勝負と、絞り込んだ層だけに向けて価値観を提案するセレクトヴィンテージ。後者が確立されだした事が、ファッションマーケットの成熟度の証でしょうか。
最近もどんどん増えるリメイク、再構築、リビルドブランドですが、ブランドネームをはずすと、昔からあった古着屋さんのお兄さんお姉さんが手作りして、フリーマーケットに並べていたものとの差がわからない程度のものが多いのが残念です。
アヴァンギャルドな90年代のXULY.Bet、Geoffrey B Smallのアーティスティックアルチザン、哲学的なMartin Margielaのアーティザナル、2000年代のDr.Romanelliの成金ヒップホップ、Libertineのグランジ&プリントと来て、最近のGreg Laurenのちょい悪セレブという、古着成熟国の個性的な世界にはなかなか辿り着けないのでしょうか。
MIHARA YASUHIROのModifiedには少し期待したのですが、やっぱり切った貼っただけではなーという感じです。
NEST OF MANUREの手を多用した切った貼ったとは違ったAlterationというアプローチは、Geoffrey B Smallに通じるように感じていて密かに期待しているのですが。
Posted by yossy at 2016年02月17日 12:58
興味深いですね。「古着」の魅力の記事も楽しみにしております。
Posted by at 2016年02月24日 01:03
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